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令和3(2021)年度社会福祉推進事業

医療扶助のオンライン資格確認システムの導入を踏まえ、要否意見書の電子化に向けた具体的方策についての調査研究事業

【目的と方法】

 生活保護受給者(以下「被保護者」という。)が医療扶助により医療機関を受診する際には、福祉事務所から医療扶助の決定を受け医療券の交付を受ける必要がある。福祉事務所は医療扶助の決定にあたって、医療要否意見書により医療機関から医療の要否を確認する。福祉事務所におけるこれらの手続きは現在紙ベースで多く行われており、このことが、医療機関及び福祉事務所における事務負担を増やす要因となっている。医療券に係る事務の中では、医療扶助のオンライン資格確認の導入が令和5年度中に予定されており、そこに関わる部分は電子化による事務の効率化や負担軽減が図られる見込みとなっている。一方で、医療要否意見書に係る事務手続きについてはオンライン資格確認の手続きには含まれないため、電子化にあたってはまず現場での運用の実態を把握したうえで、実現可能な電子化の方策を検討していく必要がある。

 本調査では、全国の福祉事務所を対象として医療要否意見書の実施方式に関するアンケート調査を実施し全国的な運用実態について把握するとともに、すでに医療要否意見書を部分的にでも電子的な方法で運用している福祉事務所6ヵ所に対してインタビュー調査を行い、電子化の状況や今後望まれる電子化の在り方等について聞き取りを行った。その上で、アンケートおよびインタビュー調査の結果を基に、医療要否意見書の電子化の方策等についてまとめた。医療要否意見書の電子化に向けた具体的な方策を検討するにあたっては、法律や制度的な観点からの検討も加えるために、法律や制度に詳しい有識者2名から意見を聴取した。

【結果と考察】

 アンケート調査では、医療要否意見書の申請・交付に関する諸手続きを電子的な方法で行うことについて、「賛成」という回答が過半数を占めた。一方で、医療要否意見書の具体的な交付手続きについて、医療要否意見書の交付方法や、医療要否意見書と医療券の交付の順序等について、福祉事務所の間で違いがあることが確認された。

 また、福祉事務所が医療要否意見書を取得する過程については、新規か継続か、入院か入院外かということに関わらず、被保護者を介さず医療機関と直接医療要否意見書のやり取りを行うケースが多く、また医療機関と医療要否意見書をやり取りする際には、複数人分をまとめて送付を行うケースが多かった。

 インタビュー調査では、電子化を先行的に実施している事例を聞き取ることができた。その中では、「担当者の残業時間が減少した」「医療要否意見書の発行等に係る作業時間が短縮できた」といったメリットが聞かれた一方で、医療機関側と調整が必要な課題(医療機関による送付書類の様式不統一)や既存のシステムと調整が必要な課題(システムによる出力様式の不統一)も聞かれた。

 電子化のためには、本調査から確認できた電子化のメリットを最大限活かしつつ、同時に確認できた課題への対応や、要否意見書の形式・福祉事務所と医療機関や被保護者とのやり取りの方式の標準化についても検討していく必要があり、その検討すべき内容等を具体的方策としてとりまとめた。


令和元年度社会福祉推進事業

医療扶助の実施方式に関する実態調査及びあり方に関する研究事業

【目的と方法】

 生活保護制度の医療扶助については、制度創設当初より、福祉事務所が医療券や調剤券の発行をすることでその給付が行われてきた。本来、被保護者が医療扶助により医療機関で診察を受ける際には、事前に医療券を取得してから診察を受ける必要があるが、実際にそのような手順で手続が行われている自治体が全てではない。

 医療券の発行手続きにどの程度ばらつきがあるのか、また、その違いが、ひとり当たりの医療扶助費や、福祉事務所の職員の業務負担にどの程度影響を与えているのか等の現状把握を行うために、本調査を以下の流れ(①~③)で実施した。

①事前調査:アンケートの調査票作成を主目的に文献調査・インタビュー調査を実施した。
②アンケート調査:福祉事務所の職員の残業時間及び管轄内の医療費(1人当たり総額・診察回数・1回あたり費用等)と医療券の発行形式等の関係を検証するアンケート調査を実施した。アンケート調査は、全国の福祉事務所(1321箇所)を対象とし、回答は741票(回収率56.1%)であった。
③事後調査:主にアンケートの自由記述において、医療券の事務についての課題に関する記載の多かった福祉事務所や、要否意見書について医療機関とのやり取りに苦労している福祉事務所へ追加的なインタビュー調査を実施した。

【結果と考察】

 インタビュー調査からは、医療券の発行方式が福祉事務所ごとに異なること、毎月の発行に際し印刷だけでも職員に負荷がかかっていること、医療券発行前の医療機関受診に対して福祉事務所によりその受容度が異なること、受給者番号の固定化への対応方法が福祉事務所間で異なること、などが示唆された。

 アンケート調査からは、次のことが示唆された。単純集計からは、医療券の発行や制度運用等が福祉事務所によって異なることを、改めて定量的に確認することができた。例えば、「医療券を本人へどのように渡していますか?」の設問では、約3割が本人に手渡し、約7割が医療機関に送付していると回答した。

 残業時間等の業務負荷に関する被説明変数を用いた分析の結果からは、医療券の本人への渡し方及び専門職の不足等の人員体制との関連が見られた。

 医療扶助費に関する被説明変数を用いた分析の結果においては、ひとり当たりの入院外決定点数については、医療券の発行形式等の設問と想定される方向で関連が見られるものは皆無であった。一方、被保護者ひとり当たりの入院決定点数については、「医療券の本人への渡し方」及び「交付までの時間」に関連していた。

 以上から、医療券の発行方式は福祉事務所により異なっていることが確認され、それにより職員の残業時間は影響を受けているが、医療扶助費への関連は外来では観察されず、入院の一部に限られることが示唆された。

平成30(2018)年度社会福祉推進事業

諸外国における低所得世帯の医療費等と利用量に関する調査研究事業

【目的と方法】

 低所得世帯に対する医療費の窓口払いや償還払いによる受療行動や健康指標の変化、医療の内容への影響等に関する知見について、国内外の研究論文を中心に収集、整理した。その上で、特に償還払いに関する文献が少ないことから、償還払いによる医療需要への影響を分析することを主眼に、インターネットアンケート調査とそれに基づくコンジョイント分析を実施した。

 アンケート調査は、民間ネットアンケート会社のモニターに対して行った。アンケート票の配分は、2016年国民生活基礎調査の、生活保護基準以下の低所得世帯数に対する被保護世帯の割合に準じ、生活保護世帯の方458名、低所得一般世帯の方1,542名とした。またそれらとの比較対象とするため、世帯所得が600万円以上と1200万円未満となる600名を中程度所得一般世帯の方として定義し、同様のアンケート調査を行った。

 また、平成30年度社会福祉推進事業「諸外国における低所得世帯の医療費等と利用量に関する調査研究事業」 委員会を、事業期間中に3度開催した。