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Report・Column最新のレポート・コラム

2021年09月27日

コラムNEW

自己負担と手続きの違いによる医療受診判断の変化

取締役兼主任研究員 奥田将己

日本では国民皆保険制度により、誰もある程度は必要な医療を受けられるようになっています。一方、近年は医療が多様化するなかで、受診の金銭的な補助に対する必要性の判断はより難しさを増しています。

こうした状況のなか、弊社で実施した調査事業にて取得されたデータを用いて執筆した論文、“Preferences for the forms of co-payment and advance payment in healthcare services; a discrete choice experiment” (日本語タイトル「医療サービスにおける費用の自己負担と償還払いの設定の選好;離散選択実験」)が、2021年2月、“Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy”に掲載されました。その中では、医療費の自己負担と償還払いの発生による、必要性の高い受診・低い受診に対する受診行動(本人の症状、或いは子どもの症状に対して)の傾向を、所得層別に捉えております。

当該論文のWebアンケートは、生活保護水準の所得世帯として全国を代表する、生活保護世帯や低所得一般世帯に加えて、比較対象のために中程度所得一般世帯を対象として行っています。分析の結果、全般的に自己負担額の増大により、受診を控えようとする傾向が見られました。ただし、中所得世帯の子どもの虫歯についてはその傾向は出ていませんでした。償還払いによる受診抑制の程度は、中程度所得一般世帯と比較し、生活保護世帯や低所得一般世帯で大きくなっていることが分かりました。また、償還払いの有無による受診抑制の影響は、子どものいない世帯における回答者本人の症状や、子どものいる世帯における回答者の子どもの肌荒れ・嘔吐(一時的なもの)に対しては生じていたものの、子どもの高熱・虫歯に対しては低所得一般世帯の虫歯を除き生じていませんでした。

このことにより、自己負担額の高さではなく手続きの違いがあることで、必要性の低い症状を中心に、受診抑制の起こる可能性が示唆されました。今後も制度のあり方について、より科学的な視点から、調査を通じて寄与していきたいと考えております。

Medical Welfare

Okuda, M., Ichida, Y., Yamane, K., Ohtsuka, R., Yamaguchi, M., Goto, R., Yamada, A., Sannabe, A., Kondo, N., and Oshio, T. (2021). Preferences for the forms of co-payment and advance payment in healthcare services; a discrete choice experiment. Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy Vol.3 No.2 【DOI】10.6011/apj.2021.01

Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy

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2021年08月30日

コラム

「コロナ禍でとられた障害者スポーツ振興の工夫」

副主任研究員 伊藤綾香

2020年に実施予定だったオリンピックおよびパラリンピックは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受け2021年に延期となりました。ちょうどこのコラムを書いている2021年8月現在、つい先日オリンピックが閉会を迎え、予定通りであればもう少しでパラリンピックが始まるというところです。
さて、こうした大規模なイベントを支えるのは日常的なスポーツ振興の取り組みであり、そこには大きく分けてスポーツを人々に知ってもらい、競技人口を増やしていく普及促進事業と、競技者のレベルを向上させる強化事業とがあります。日本では地域のスポーツ協会や、競技団体がそれらの重要な担い手となっています。
COVID-19の拡大により、各地での大会・競技会等イベントの中止や縮小など、こうした事業は大きく影響を受けました。それでも、様々な団体が、感染症拡大下でもスポーツを広げるための様々な工夫を凝らしました。弊社が2020年度に受託した「令和2年度 「障害者スポーツ推進プロジェクト (障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」 (新型コロナウイルス感染症の影響調査) では、日本全国の障害者スポーツ団体へのCOVID-19の影響と、コロナ禍でのイベント実施状況についてのデータをまとめています。
報告書では、実際に、障害者スポーツ競技団体、都道府県・政令指定都市障害者スポーツ協会いずれもその多くがイベントにおいて無観客・入場制限といった方法をとったことや、イベント以外の事業の多くが前年度(2019年度)と比べて規模が縮小したことなどが明らかにされています。
一方、こうした中で、ICTを活用し、試合の生配信や、オンラインでのスポーツ教室の開催、生配信でのスポーツ大会を実施した団体もありました。例えば、報告書で事例が紹介されている令和2年度青森県特別支援学校オンラインスポーツ大会では、対面での競技が難しいことから、バレーボールのトスの回数を競うといった新しいルールが生み出されました。スペシャルオリンピックス日本では、大型イベントが中止となった代わりに、参加者で走行距離をつなぎ日本一周を目指す「オンラインマラソン」が実施されました。こうした取り組みは、障害者スポーツに関心を持つ新しい層を開拓することにもつながるかもしれません。
感染症の拡大がスポーツ振興にもたらした影響は小さなものではありません。しかし、もともとパラリンピック終了後のスポンサー撤退というパラバブル崩壊 といった指摘もされていました。障害者スポーツの火を絶やさないための各地での工夫が、様々な人へ障害者スポーツについて触れるきっかけを作り、こうした問題を乗り越えていくことにもつながるのか。障害者スポーツ団体や行政、スポンサーや市民の動きに今後も注目していきたいところです。

関連情報とリンク

スポーツ庁HPにて公開。

NHK、令和2年 2月27日17:00、Web 特集「開幕まで半年“パラバブル”その先へ」

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2021年08月30日

コラム

「海外では新型コロナによる一般市民の生活苦にどう対処したのか」

副主任研究員 伊藤綾香

2019年12月に中国で感染が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。その後世界中に感染が拡大し、1年半以上が経過したいまも私たちはコロナ禍に生きています。グローバルな人・モノの移動が前提となっている現代社会において、世界的な感染症の流行(これ自体、人々の移動によるところも大きい)は想像を超えるものとなっています。そして、感染症拡大のなか人々の生活環境が大きく変わったことにより、医療面だけではなく、生活面、収入面、心理面にも影響が及び、具体的には、失業やDVの増加など、様々な問題が生じています。

このうち、アメリカ連邦政府による経済施策をみてみると、2020年3月以降、トランプ政権で5回、バイデン政権に代わりプラス1回、新型コロナウイルス関連の経済対策が策定されました。そのうち第3段「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」(2020/3/27)、第5弾「新型コロナウイルス追加対策(Consolidated Appropriations Act)」(2020/12/21)、第6弾「アメリカ救済政策American Rescue Plan」(2021/3/11) で国民一般への現金給付が行われました。
この現金給付一つとっても、その対象(所得制限を付けるかどうか、等)、給付方法(本人による申請が必要か、等)、回数など、国によってその方法は異なり、また、その違いはそれまでの社会のあり方によっても左右されます。ウィズコロナかポストコロナか――各国の政策やその背景について調べ、分析することが、今後どのような社会の中で生きていくのかを考えるうえで重要です。

関連情報とリンク

本調査事業の成果の一部は「令和3年度版厚生労働白書――新型コロナウイルス感染症と社会保障――」の第2章第2節で引用されています。

第6弾は大統領選挙後、バイデン政権下で行われた大規模の予算による対策です(BBC、2021年3月12日「アメリカで200兆円の新型ウイルス経済対策法が成立 バイデン大統領が署名」)。各国の政策動向をみるうえでは、こうした、選挙やその結果による政権移行など、社会(政治)事情にも着目する必要があります。

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2021年08月30日

コラム

『BIT BY BIT』第4章「実験を行う」 ~デジタル時代の実験~

主任研究員 清水啓玄

マシュー・J.サルガニック著の『BIT BY BIT デジタル社会調査入門』はデジタル時代における実験や分析の可能性について縦横に論じており、今後の方向性を考える上で示唆に富んでいます。そのなかの第4章「実験を行う」を見てみましょう。

ここで扱われている実験とは、「自然実験」と呼ばれるものであり、ランダムな(またはランダムであるかのような)ばらつき(variation)を持ち、さらにリアルタイムのデータを扱う実験と定義されています。そのほか本章では、従来の分類である「ラボ実験/フィールド実験」という第1軸と新たにデジタル時代が到来したことによる「アナログな実験/デジタルな実験」という第2軸をもって区別する必要性が示されています。
身近にあるPCのみを用いて行う「完全にデジタルな実験」では、被験者を募集し、ランダム化し、処置を行い、結果を測定するという一連の流れをすべてオンラインで行います。これは、実験経済学の流れで従来から行われていたものです。
一方、近年、デジタル機器やSNS(Twitter、Facebookなど)の利用が身近になったことにより、データ入手の面で大きな変化がみられるようになりました。まず、長期間のタイムスケールでのデータが得られるようになり、その規模も数百から数百万に拡大できるなど、アナログな実験での制約が取り払われるメリットが指摘されています。

本書では、デジタルな実験のデザインの仕方や倫理面についても触れられており、非常に参考になります。

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2021年07月01日

コラム

「臨床研究と疫学研究のための国際ルール集」を博⼠⼈材がナナメ読みしてみた

代表取締役 市⽥⾏信

私はもともと経済学や農学系の研究室にいたため医学や疫学の体系的な教育を受けた事は無い。2003年頃から、社会疫学の研究会である⽇本⽼年学的評価研究に、研究室の先輩を通じて偶然関わることになったが、研究会の代表である近藤克則先⽣から医学系の論⽂の書き⽅を教わったときは、その書き⽅が体系⽴っていて驚いた

⽂系の論⽂に⽐べて書くべきことが⾮常に細かく指定されているため、読みやすく、また、⾮常に書きやすくなっていると感じた。例えば、アンケート調査などでデータを取得した⽇など、論⽂やレポートを書く時に忘れそうになったことはないだろうか。この本に含まれる「STROBE声明」には、このような、何もないと書き忘れそうな項⽬のリストが⽰されている。それ以外の項⽬として、研究結果をどこまで⼀般化できるかを考察する、といったものもある。

さらに、どのような研究デザインで⾏われた研究結果のグレードが⾼い(≒より確からしい)のかが明確に⽰されており、例えば、RCT(ランダム化対照試験)は「⾼」、観察研究は「低」、その他は「⾮常に低」、とされる。このため、政策や実務上の判断や、建設的な議論を⾏うためにディスカッションにおいて活⽤しやすくなっており、個⼈的には、医学以外の分野でも、書き⽅のガイドラインが分野に無いのであれば、医学論⽂の書き⽅に則ることが有益と考えている。

近年、⾏政においてもEBPM(証拠に基づく政策⽴案)を重視するようになってきた。例えば、内閣府のウェブページ上では以下のように⾔及さている。本書は、EBPMの源流である医学のエビデンスについてのガイドライン集であり、重要な視点やフレームワークを豊富に含んでおり、エビデンスについて深く理解するために有益である。

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策⽴案)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策⽬的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。
政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活⽤したEBPMの推進は、政策の有効性を⾼め、国⺠の⾏政への信頼確保に資するものです。内閣府では、EBPMを推進するべく、様々な取組を進めています。

  • 書誌情報とリンク
  • タイトル : 「臨床研究と疫学研究のための国際ルール集」
  • 著者 : 中⼭ 健夫、津⾕ 喜⼀郎
  • 出版社 : ライフサイエンス出版 (2008/12/22)
  • 発売⽇ :2008/12/22
  • ⾔語 : ⽇本語
  • 単⾏本 : 277ページ
  • ISBN-10 : 4897752515
  • ISBN-13 : 978-4897752518
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