2024年08月26日
コラム NEW
児童虐待リスクアセスメント支援のためのAIシステム
児童相談所の児童虐待相談対応件数は、令和4年の調査で21万件を超えたことがわかりました1。児童相談所や自治体の児童福祉関連部署の業務は年々増加しており、職員の負担軽減は喫緊の課題となっています。
重大事件の発生防止のためには、一件一件の案件の対応に時間をかけ、対人業務や情報収集を十分に行う必要があることは周知の事実ではありますが、対応できていないのが現状です。
児童相談所において相談対応の際に作成される記録(経過記録)は、「児童虐待という形で困難が顕在化した前後の情報が網羅的に含まれたデータ2」として、その後のリスクアセスメントや一時保護などの対応を考える上で大変重要なデータといえます。
しかし、国立社会保障・人口問題研究所の泉田信行氏(2020)3は「最大の場合では1人の児童福祉司が3日に1件新規の虐待相談を受け付けているような状況においては、情報の把握や記載が裁量的な形になることも予想される」と述べています。
さらに、福島県立医科大学の八木亜紀子氏(2017)は『「対人援助者の記録は援助者当人のためのものではなく、クライアントに加え、第三者が見るためのものである」のであれば、職員の資質や経験、児童相談所ごとのローカルルールによって書くべき内容の取捨選択や記載ぶりが異なることは望ましくない』と論じています。
つまり、経過記録を効果的に活用するためには、リスクアセスメントに必要な項目が過不足なく記載されているかどうか、一定の観点から記録内容の確認をするプロセスが必要になります。
以上をふまえ、当社では児童相談所や自治体の児童福祉関連部署で働く皆様にご活用いただける「児童虐待対応におけるリスクアセスメントを支援するためのAIシステム」を開発しました。
具体的には、文章を分析する最新AIが、児童虐待対応の重要なプロセスであるリスクアセスメントにおける、以下のような悩みを軽減します。
1)経過記録が多いケースでは、記憶に頼ってしまう。漏れがないか心配。
2)ケースが長期化すると、担当者以外はケースの内容が分からなくなる。
3)部下が行う多数のアセスメント結果を、実際はチェックしきれていない。
4)過去に似たケースがあったが、すぐに思い出せず、探せない。
5)経験豊富な職員が少なく、迷ったときに、参考にできるものが少ない。
主要機能の「リスクアセスメントシート作成」は、登録した経過記録から、リスクアセスメントシートの各項目に関連する文章(関連文)をAIが自動で抽出。関連文がある場合はシートに自動でチェックが付き、後は関連文を確認しつつ手動で「はい」か「いいえ」などを確定していきます。
1令和4年度児童虐待相談対応件数(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a176de99-390e-4065-a7fb-fe569ab2450c/12d7a89f/20230401_policies_jidougyakutai_19.pdf)
2野田正人・藤間公太(2020)「序章 児童虐待をめぐる動向と今日的課題」『児童相談所の役割と課題:ケース記録から読み解く支援・連携・協働』東京大学出版会.
3泉田信行(2020)「第8章 ケース記録における経済状況の記載の詳細化について――児童相談所と市町村の連携の視点から」『児童相談所の役割と課題:ケース記録から読み解く支援・連携・協働』東京大学出版会.