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Report・Column最新のレポート・コラム

2024年08月28日

コラム NEW

発達障害者支援のための地域的な取り組みについて

副主任研究員 伊藤綾香

 発達障害者支援法が施行された2005年4月から20年近くが経過する中、発達障害児者をめぐる状況は大きく変化しています。平成17年(2005年)度発達障害者支援センター実績では、相談支援・発達支援利用者(実数)は1万5464人でしたが、令和4年(2022年)度実績では、6万430人と、センター数の増加(37か所→97か所〈ブランチなど含む〉)に対して利用者の増加割合が大きくなっています。また、上記のうち19歳以上の利用者の内訳を見ると、前者は20.2%(3,124人)に対し、後者では40.3%(2万4324人)にのぼっていました1 。ここから、いわゆるおとなの利用割合が増加していることがわかります。加えて、就労支援2 の利用者(実数)も439人から9,787人と約20倍となっていることからも、発達障害者支援の現場に求められることの変化が読み取れます。

図1 相談支援・発達支援の利用者数(実数)

 都道府県・政令指定都市には、地域の発達障害者支援体制整備のための課題やニーズなどの共有・協議の場として、「発達障害者支援地域協議会」を設けることが定められています。弊社は、令和5年度障害者総合福祉推進事業「都道府県・政令市における発達障害者支援地域協議会の協議等の状況及び発達障害者支援センターの役割・機能に関する実態調査」において、この発達障害者支援地域協議会に着目し、市町村やセンターとの連携などを含め、地域ごとの特性も考慮しながらその実態について調査を行いました。
 その結果、自治体によって協議会の構成や実施状況が異なることがわかりました。まず、協議会の構成員について、医療関係、労働関係、福祉関係、親(家族)が含まれている割合は90%前後とほとんどの自治体で参加がみられる一方、保健関係、警察及び司法関係者、当事者、民間団体については40%未満でした。また協議会に参加している自治体職員の最高位では、局長・部長級が全体の38.1%、課長級が60.3%など、構成方法は多様でした。
 続いて、過去3年間における各自治体の協議会の平均実施頻度は、1回以下あるいは2回以上のところが概ね半々でした。各自治体の発達障害者支援にかかる計画への関与状況では、策定に協議会事務局が関与している自治体が63.5%、協議結果を策定の参考としている自治体は50.8%、協議会で計画の進捗確認や情報共有を行っている自治体は全体の46.0%、計画の振り返りを行っている自治体は22.2%でした。図表2は実施頻度と計画への協議会事務局の関与のクロス集計結果ですが、実施頻度が高いところは、協議会が計画に関与している割合が高い傾向があるようです。

図2 実施回数と協議会による計画策定への関わり

 こうした違いが地域による支援の格差に直接つながるものであるとは言い切れません。しかし、発達障害をめぐる支援ニーズの高まり・多様化が進む中、地域の様々な機関が連携しながら、いわゆる「切れ目のない」支援をしていくためには、各地域の実情に合わせた支援体制整備が求められており、協議会の重要性はますます増していくものと思われます。

1国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害者情報・支援センターより、平成17年度発達障害者支援センター実績(年齢別)(http://www.rehab.go.jp/application/files/6315/8323/0569/H17.pdf)令和4年度発達障害者支援センター実績(http://www.rehab.go.jp/application/files/6916/8895/0349/R4.pdf)。前者では「相談支援」「発達支援」が分けられ、後者では「相談支援・発達支援」となっており、ここでは前者を足し合わせた数を示している。また、後者では19歳以上を「19~39歳」「40歳以上」と分けており、ここではその合計数を示した。
2平成17年度実績では「就労支援」、令和4年度実績では「相談支援・就労支援」と記載。

2024年08月26日

コラム NEW

児童虐待リスクアセスメント支援のためのAIシステム

パートナー兼主任研究員 和田有理

 児童相談所の児童虐待相談対応件数は、令和4年の調査で21万件を超えたことがわかりました1。児童相談所や自治体の児童福祉関連部署の業務は年々増加しており、職員の負担軽減は喫緊の課題となっています。
 重大事件の発生防止のためには、一件一件の案件の対応に時間をかけ、対人業務や情報収集を十分に行う必要があることは周知の事実ではありますが、対応できていないのが現状です。
 児童相談所において相談対応の際に作成される記録(経過記録)は、「児童虐待という形で困難が顕在化した前後の情報が網羅的に含まれたデータ2」として、その後のリスクアセスメントや一時保護などの対応を考える上で大変重要なデータといえます。
 しかし、国立社会保障・人口問題研究所の泉田信行氏(2020)3は「最大の場合では1人の児童福祉司が3日に1件新規の虐待相談を受け付けているような状況においては、情報の把握や記載が裁量的な形になることも予想される」と述べています。
 さらに、福島県立医科大学の八木亜紀子氏(2012)4は『「対人援助者の記録は援助者当人のためのものではなく、クライアントに加え、第三者が見るためのものである」のであれば、職員の資質や経験、児童相談所ごとのローカルルールによって書くべき内容の取捨選択や記載ぶりが異なることは望ましくない』と論じています。
 つまり、経過記録を効果的に活用するためには、リスクアセスメントに必要な項目が過不足なく記載されているかどうか、一定の観点から記録内容の確認をするプロセスが必要になります。
 以上をふまえ、当社では児童相談所や自治体の児童福祉関連部署で働く皆様にご活用いただける「児童虐待対応におけるリスクアセスメントを支援するためのAIシステム」を開発しました。
 具体的には、文章を分析する最新AIが、児童虐待対応の重要なプロセスであるリスクアセスメントにおける、以下のような悩みを軽減します。
  1)経過記録が多いケースでは、記憶に頼ってしまう。漏れがないか心配。
  2)ケースが長期化すると、担当者以外はケースの内容が分からなくなる。
  3)部下が行う多数のアセスメント結果を、実際はチェックしきれていない。
  4)過去に似たケースがあったが、すぐに思い出せず、探せない。
  5)経験豊富な職員が少なく、迷ったときに、参考にできるものが少ない。
 主要機能の「リスクアセスメントシート作成」は、登録した経過記録から、リスクアセスメントシートの各項目に関連する文章(関連文)をAIが自動で抽出。関連文がある場合はシートに自動でチェックが付き、後は関連文を確認しつつ手動で「はい」か「いいえ」などを確定していきます。

 そのほか、オプション機能として「類似事例の抽出」や「総合リスク推定(研究向け)」もあります。
 LGWAN上のシステムのため、セキュリティも高く、各職員様のPCから簡単に利用できます。

児童虐待対応におけるリスクアセスメントなどでお悩みの児童相談所の方、自治体の(児童)福祉関連部署の方など、お気軽にお問い合わせください。
メール:order@doctoral.jp
電話:03-6280-3569

1令和4年度児童虐待相談対応件数(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a176de99-390e-4065-a7fb-fe569ab2450c/12d7a89f/20230401_policies_jidougyakutai_19.pdf)
2野田正人・藤間公太(2020)「序章 児童虐待をめぐる動向と今日的課題」『児童相談所の役割と課題:ケース記録から読み解く支援・連携・協働』東京大学出版会.
3泉田信行(2020)「第8章 ケース記録における経済状況の記載の詳細化について――児童相談所と市町村の連携の視点から」『児童相談所の役割と課題:ケース記録から読み解く支援・連携・協働』東京大学出版会.
4八木亜紀子(2012)『相談援助職の記録の書き方―短時間で適切な内容を表現するテクニック』中央法規出版.

2023年07月18日

コラム

国の統計調査の効率化に思うこと

取締役兼主任研究員 奥田将己

 公的統計の整備に関する基本的な計画(第Ⅲ期基本計画が平成30年3月6日閣議決定/その変更版が令和2年6月2日閣議決定)の実行により、業務の効率化や報告者負担の軽減・統計の利活用推進の観点から、政府統計に関わる人々(①政府、自治体などの統計調査実施者・作成者、②企業、世帯など統計調査の報告者、③統計ユーザー)の時間コストの合計を3年間(平成30~令和2年度)で2割削減するとされていた1
 実際に、計画の実行によって時間コスト削減目標は達成されたものの、現在(令和5年7月時点)もその取り組みは、継続されている。

 政府統計に関する時間コストの削減は国からの委託業務として、以下のパターンなどで対応可能かの検討がなされている。
(1) 代替手段が存在する調査(内容の重複が見られる情報収集)の実施自体を省略
(2) 経営体に対しての調査であれば、許可を得た上で税務申告情報など、調査対象が必ず記録している情報を取り込んで活用
(3) その他、データ取得時やデータクリーニング時の操作を電子化・自動化の実施

 (1)(2)においては、代替手段で調査項目が合致しているか、データの取得条件に大きな違いがないか、取得されたデータそのものに傾向の違いがないかを確認した上で、代替手段を適用する。
 (3)においては、データ取得時に想定される機材環境やデータ入力者の手間などについて、現実の運用に耐えうるかを確認しつつ、手法の改善を目指していく。さらに、データクリーニング部分に関しては、項目間で発生しうる矛盾についての確認などの設定を行う。

 これらの手段を検討する際に必要となる知見は、統計調査全般の実施時にも、査読付き学術論文の作成時にも同様に必要になる。
 データを扱う学術研究において、査読付きの論文の出版に至るまでに必要な「仮説の設定方法」「データ取得方法(データクリーニング・データクレンジングを通しつつ)」「データ分析方法」など、それぞれの知見は、大学などの指導教員をはじめ、ゼミや学会発表の聴衆、論文投稿先の査読者などからの指摘を受けながら、研究全体が論理的で再現性のあるものになるよう磨かれていく。特にデータの取得方法を考える際、対照実験を厳密に組める場合などを除き、データの代表性やサンプル数の構成など、統計調査の際と同様の配慮が必要になることが多い。

 なお、国の統計は全国が対象とはいえ、限られた条件下での回答者設定の統計も存在するためサンプル数の規模はさまざまであり、仮説の設定からデータ分析までの一連の流れは、いずれの統計でも深く関連する。

 限られた予算の中でいかに有効な統計調査の運用ができるかの判断には、調査背景やデータの分析による解釈が不可欠となるため、統計の一使い手として関わり続けていきたいところである。

1 官民の統計コスト削減に係る最終フォローアップ結果 令和3年9月総務省政策統括官( 統計制度担当 )
https://www.soumu.go.jp/main_content/000562988.pdf

2023年06月02日

コラム

指定障害福祉サービス事業所への実施指導に係る工夫について

副主任研究員 伊藤綾香

 障害福祉サービス等の質・適正な給付を担保する仕組みとして、障害者総合支援法に基づく国や都道府県等による調査の権限規定があります。障害福祉サービスの利用者や事業所が増加する(図1)一方で、十分に実地指導等が実施できていないことが課題となっています。

図1 障害福祉サービス等の年次別事業所数

※令和3年社会福祉施設等調査、【基本票】障害福祉サービス等の事業の種類、年次別事業所数より

 弊社は、厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業「指定障害福祉サービス事業所等に対する実地指導等に係る指導方法に関する調査研究」を実施しました。この調査は事業所の指定権限および指導監査権限のある都道府県、政令指定都市および中核市を対象に、実地指導の現状や効率的な実施指導の工夫・意向等を把握することを目的としています。
 その結果、実地指導の体制として、全体の77.0%が単独の部署で所管しており、62.8%(図2のうち、いずれかに「1.あり」と回答した自治体の合計)の自治体で他法による指導監査業務を兼務している職員がいることがわかりました。さらに担当職員が6年未満で異動する自治体が98.2%であり(図3)、88.5%が「対応する事業所の増加に担当者の数が追い付かない」こと、70.8%が「担当者の異動等でノウハウが定着しない」ことを課題として挙げていること等が明らかになりました(図4)。

図2 他法による指導監査業務との兼務

図3 担当者の異動周期

図4 実地指導体制における課題

 本調査では、実地指導等の効率化や実施率の向上に向けた好事例の収集も行いました。そのうち、東京都では外部機関の活用に係る取り組みとして、実地指導を行う区市が指定事務受託法人に委託する際の費用補助を行っていました。担当課によれば、外部機関を活用することにより、単に区市の負担が減るというだけでなく、区市間での指導方法の統一や体制づくり、ノウハウの積み上げにも寄与し、長い目で見た場合のコストの削減にもつながる可能性もあるとのことでした。
 指定事務受託法人の活用に関する自由記述設問で「依頼できる機関がない」といった回答がみられるなど、自治体によって資源の違いはあると考えられますが、好事例のような工夫が共有されることで、より効率的・効果的な指導が進められ、良好な障害福祉サービスの確保につながることが期待できます。

2022年09月27日

コラム NEW

化学物質の粒子の形状と有害性について

主任研究員 清水啓玄

令和3年度の環境省調査「化学物質管理に係る新たな課題に関する調査業務」では、形状の異なる化学物質の有害性について調査しましたが、この中で固体状態の物質において、化学組成が同一であっても、粒子径や構造によってその有害性が変化することがわかりました。

① ナノ粒子
物質の粒子のサイズをナノスケールまで小さくすると(ナノ粒子)、体積に対する表面積が指数関数的に増大するため、物質表面はその周辺の環境に反応しやすくなります。例えば、粒子の酸化やDNA損傷能力が用量依存的に増加します 1

② アスペクト比の高い形状
アスペクト比が高い形状(繊維状、針状、棒状など)は、粒子の有害性が高いことが観察されています。例えば、酸化チタンファイバーは、球状粒子よりも細胞有害性が高いことがわかりました。さらに長さ15 mmの酸化チタン繊維は、長さ5 mmの繊維に比べて有害性が高く、マウスの肺胞マクロファージ(白血球の一種)による炎症反応を引き起こすことが示されています 2, 3

とりわけ、高アスペクト比ナノ材料(HARN)と呼ばれるカーボンナノチューブやカーボンナノファイバー、酸化チタン、金属ナノワイヤー、金属ナノロッドなどは、卓越した新しい特性を提供する一方で、有害性を示す可能性が高いといえます。しかし、すべての繊維状物質やHARNが有害というわけではありません。世界保健機関(WHO)は異なる材料間で有害性に大きな差があることを報告しており 4、ウォラストナイト(CaSiO3)のように不活性なものもあります 5

粒子を吸入することによる肺胞内でのメカニズムは、下の図のようになります。通常、肺内に異物を取り込むとマクロファージが活性化し、貪食作用を起こして異物は細胞外に放出されます。ところが、アスペクト比が高い形状では、この貪食作用が起こりにくくなります。有効に細胞外に放出されないことにより長時間、細胞内に残存し、有害作用を引き起こすと考えられるからです。一方で、経口摂取では有害性による影響は極めて小さいようです 6

図:異物の吸入により肺胞で予想される事象(貪食)

欧州委員会は2011年、ナノマテリアルの定義に関する勧告(2011/696/EU) 7を発表しました。この勧告は、「化学品の登録・評価・認可および制限に関する規則(REACH)」や「化学品の分類、表示、包装に関する規則(CLP: Regulation on Classification, Labelling and Packaging of substances and mixtures)」など欧州の様々な規制で使用され、ナノ材料の定義・方法を調和させるために使用されています。

欧州REACHでは、一般的な物質に課される義務(1トン以上製造する物質の登録やサプライチェーンでの情報提供など)がナノマテリアルにも適用されています。ナノ材料に対するREACHの実施に関する情報(ガイダンスやREACH評価プロセスの適用を含む)は、ECHA(European Chemical Agency)のウェブサイト 8で閲覧できます。

また、欧州CLP規則では、CLP1272/2008に基づき、有害と分類される基準を満たすナノ材料は、分類および表示されなければならないというように定めています 9

現在もナノマテリアルの有害性は議論が続いており、今後の国内外におけるナノマテリアルの動向に注目が集まります。

1 Physicochemical Properties of Nanomaterials: Implication in Associated Toxic Manifestations, Manzoor Ahmad Gatoo et al., BioMed Research International, 2014.
(http://dx.doi.org/10.1155/2014/498420)
2 Role of target geometry in phagocytosis, J. A. Champion and S. Mitragotri, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol. 103, no. 13, pp. 4930–4934, 2006.
3 Preparation, characterization and in vitro cytotoxicity of paclitaxel-loaded sterically stabilized solid lipid nanoparticles, M. Lee, S. Lim, and C. Kim, Biomaterials, 28(12), 2137–2146, 2007.
4 WHO Workshop on Mechanisms of Fiber Carcinogenesis and Assessment of Chrysotile Asbestos Substitutes
5 Effect of chemical composition and state of the surface on the toxic response to high aspect ratio nanomaterials, Bice Fubini et al., Nanomedicine, 6(5),2011.
6 東京都環境局, https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/faq/air/asbestos/faq_05.html
7 COMMISSION RECOMMENDATION of 18 October 2011 on the definition of nanomaterial(2011/696/EU)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32011H0696
8 ECHAのナノマテリアル規制に関するウェブサイトhttps://echa.europa.eu/regulations/nanomaterials
9 Nanomaterials in REACH and CLP
https://ec.europa.eu/environment/chemicals/nanotech/reach-clp/index_en.htm

2022年09月27日

コラム

特別養子縁組成立後の支援のあり方について

パートナー兼主任研究員 和田有理

平成28年の児童福祉法改正などを受けて、国は養育の永続性(パーマネンシー)を保障する観点から、それを必要とする子どもに対して「特別養子縁組 1 」の活用を促すとともに、制度への理解を進めるための広報の展開や制度のあり方の検討、民間あっせん機関 2 への支援等を講じています。
特別養子縁組の当事者(養親・養子・実親)に対しては、縁組成立直後や数年後、および更に長期的な観点からの支援が必要と考えられますが、それぞれの状況に応じた支援のあり方や内容は、十分に確立されているとは言い難い状況にあります。
そのような中、弊社は令和3年度に、厚生労働省の調査研究事業「特別養子縁組成立後の支援のあり方に関する調査研究 3 」を実施し、縁組成立後の支援の実態や課題について、児童相談所および民間あっせん機関を対象とする調査を行いました。
調査の結果、縁組成立後の支援においては、長期的・継続的な支援を希望するケースがある一方で、あっせん機関との関わりを避けるケースもあり、当事者のさまざまな状況に応じた支援体制が必要であることが示唆されました。また、子どもの出自などに関する記録の開示については、機関によって方法にばらつきがあったことから今後、記録に関する新たなルールの必要性についても考えていかなければならないでしょう。

※「特別養子縁組の記録について、当事者から開示の希望があった場合の開示方法のルール」は、半数以上で定められていないという結果であった。

特別養子縁組の成立はあくまでもスタートであるという見地から、子どもの長い人生を見据えた制度整備や支援の確立が求められます。

1 子どもの福祉の増進を図るために、養子となるお子さんの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度。令和2年には民法が改正され、特別養子縁組の対象年齢が「6歳未満」から「15歳未満」へと引き上げられた。

2 国、都道府県及び市町村以外で、都道府県知事の許可を受けて、養子縁組あっせん事業を行う者。令和3年4月1日時点で22機関となっている。

3 https://doctoral.co.jp/wp-content/themes/EBP/assets/pdf/kodomokosodate/houkokusho_2021.pdf

2021年09月27日

コラム

自己負担と手続きの違いによる医療受診判断の変化

取締役兼主任研究員 奥田将己

日本では国民皆保険制度により、誰もある程度は必要な医療を受けられるようになっています。一方、近年は医療が多様化するなかで、受診の金銭的な補助に対する必要性の判断はより難しさを増しています。

こうした状況のなか、弊社で実施した調査事業にて取得されたデータを用いて執筆した論文、“Preferences for the forms of co-payment and advance payment in healthcare services; a discrete choice experiment” (日本語タイトル「医療サービスにおける費用の自己負担と償還払いの設定の選好;離散選択実験」)が、2021年2月、“Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy”に掲載されました。その中では、医療費の自己負担と償還払いの発生による、必要性の高い受診・低い受診に対する受診行動(本人の症状、或いは子どもの症状に対して)の傾向を、所得層別に捉えております。

当該論文のWebアンケートは、生活保護水準の所得世帯として全国を代表する、生活保護世帯や低所得一般世帯に加えて、比較対象のために中程度所得一般世帯を対象として行っています。分析の結果、全般的に自己負担額の増大により、受診を控えようとする傾向が見られました。ただし、中所得世帯の子どもの虫歯についてはその傾向は出ていませんでした。償還払いによる受診抑制の程度は、中程度所得一般世帯と比較し、生活保護世帯や低所得一般世帯で大きくなっていることが分かりました。また、償還払いの有無による受診抑制の影響は、子どものいない世帯における回答者本人の症状や、子どものいる世帯における回答者の子どもの肌荒れ・嘔吐(一時的なもの)に対しては生じていたものの、子どもの高熱・虫歯に対しては低所得一般世帯の虫歯を除き生じていませんでした。

このことにより、自己負担額の高さではなく手続きの違いがあることで、必要性の低い症状を中心に、受診抑制の起こる可能性が示唆されました。今後も制度のあり方について、より科学的な視点から、調査を通じて寄与していきたいと考えております。

Okuda, M., Ichida, Y., Yamane, K., Ohtsuka, R., Yamaguchi, M., Goto, R., Yamada, A., Sannabe, A., Kondo, N., and Oshio, T. (2021). Preferences for the forms of co-payment and advance payment in healthcare services; a discrete choice experiment. Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy Vol.3 No.2 【DOI】10.6011/apj.2021.01

Asian Pacific Journal of Health Economics and Policy

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2021年08月30日

コラム

「コロナ禍でとられた障害者スポーツ振興の工夫」

副主任研究員 伊藤綾香

2020年に実施予定だったオリンピックおよびパラリンピックは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受け2021年に延期となりました。ちょうどこのコラムを書いている2021年8月現在、つい先日オリンピックが閉会を迎え、予定通りであればもう少しでパラリンピックが始まるというところです。
さて、こうした大規模なイベントを支えるのは日常的なスポーツ振興の取り組みであり、そこには大きく分けてスポーツを人々に知ってもらい、競技人口を増やしていく普及促進事業と、競技者のレベルを向上させる強化事業とがあります。日本では地域のスポーツ協会や、競技団体がそれらの重要な担い手となっています。
COVID-19の拡大により、各地での大会・競技会等イベントの中止や縮小など、こうした事業は大きく影響を受けました。それでも、様々な団体が、感染症拡大下でもスポーツを広げるための様々な工夫を凝らしました。弊社が2020年度に受託した「令和2年度 「障害者スポーツ推進プロジェクト (障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」 (新型コロナウイルス感染症の影響調査) では、日本全国の障害者スポーツ団体へのCOVID-19の影響と、コロナ禍でのイベント実施状況についてのデータをまとめています。
報告書では、実際に、障害者スポーツ競技団体、都道府県・政令指定都市障害者スポーツ協会いずれもその多くがイベントにおいて無観客・入場制限といった方法をとったことや、イベント以外の事業の多くが前年度(2019年度)と比べて規模が縮小したことなどが明らかにされています。
一方、こうした中で、ICTを活用し、試合の生配信や、オンラインでのスポーツ教室の開催、生配信でのスポーツ大会を実施した団体もありました。例えば、報告書で事例が紹介されている令和2年度青森県特別支援学校オンラインスポーツ大会では、対面での競技が難しいことから、バレーボールのトスの回数を競うといった新しいルールが生み出されました。スペシャルオリンピックス日本では、大型イベントが中止となった代わりに、参加者で走行距離をつなぎ日本一周を目指す「オンラインマラソン」が実施されました。こうした取り組みは、障害者スポーツに関心を持つ新しい層を開拓することにもつながるかもしれません。
感染症の拡大がスポーツ振興にもたらした影響は小さなものではありません。しかし、もともとパラリンピック終了後のスポンサー撤退というパラバブル崩壊 といった指摘もされていました。障害者スポーツの火を絶やさないための各地での工夫が、様々な人へ障害者スポーツについて触れるきっかけを作り、こうした問題を乗り越えていくことにもつながるのか。障害者スポーツ団体や行政、スポンサーや市民の動きに今後も注目していきたいところです。

関連情報とリンク

スポーツ庁HPにて公開。

NHK、令和2年 2月27日17:00、Web 特集 「開幕まで半年“パラバブル”その先へ」

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2021年08月30日

コラム

「海外では新型コロナによる一般市民の生活苦にどう対処したのか」

副主任研究員 伊藤綾香

2019年12月に中国で感染が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。その後世界中に感染が拡大し、1年半以上が経過したいまも私たちはコロナ禍に生きています。グローバルな人・モノの移動が前提となっている現代社会において、世界的な感染症の流行(これ自体、人々の移動によるところも大きい)は想像を超えるものとなっています。そして、感染症拡大のなか人々の生活環境が大きく変わったことにより、医療面だけではなく、生活面、収入面、心理面にも影響が及び、具体的には、失業やDVの増加など、様々な問題が生じています。

このうち、アメリカ連邦政府による経済施策をみてみると、2020年3月以降、トランプ政権で5回、バイデン政権に代わりプラス1回、新型コロナウイルス関連の経済対策が策定されました。そのうち第3段「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES法)」(2020/3/27)、第5弾「新型コロナウイルス追加対策(Consolidated Appropriations Act)」(2020/12/21)、第6弾「アメリカ救済政策American Rescue Plan」(2021/3/11) で国民一般への現金給付が行われました。
この現金給付一つとっても、その対象(所得制限を付けるかどうか、等)、給付方法(本人による申請が必要か、等)、回数など、国によってその方法は異なり、また、その違いはそれまでの社会のあり方によっても左右されます。ウィズコロナかポストコロナか――各国の政策やその背景について調べ、分析することが、今後どのような社会の中で生きていくのかを考えるうえで重要です。

関連情報とリンク

本調査事業の成果の一部は「令和3年度版厚生労働白書――新型コロナウイルス感染症と社会保障――」の第2章第2節で引用されています。

第6弾は大統領選挙後、バイデン政権下で行われた大規模の予算による対策です(BBC、2021年3月12日「アメリカで200兆円の新型ウイルス経済対策法が成立 バイデン大統領が署名」)。 各国の政策動向をみるうえでは、こうした、選挙やその結果による政権移行など、社会(政治)事情にも着目する必要があります。

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2021年08月30日

コラム

『BIT BY BIT』第4章「実験を行う」 ~デジタル時代の実験~

主任研究員 清水啓玄

マシュー・J.サルガニック著の『BIT BY BIT デジタル社会調査入門』はデジタル時代における実験や分析の可能性について縦横に論じており、今後の方向性を考える上で示唆に富んでいます。そのなかの第4章「実験を行う」を見てみましょう。

ここで扱われている実験とは、「自然実験」と呼ばれるものであり、ランダムな(またはランダムであるかのような)ばらつき(variation)を持ち、さらにリアルタイムのデータを扱う実験と定義されています。そのほか本章では、従来の分類である「ラボ実験/フィールド実験」という第1軸と新たにデジタル時代が到来したことによる「アナログな実験/デジタルな実験」という第2軸をもって区別する必要性が示されています。
身近にあるPCのみを用いて行う「完全にデジタルな実験」では、被験者を募集し、ランダム化し、処置を行い、結果を測定するという一連の流れをすべてオンラインで行います。これは、実験経済学の流れで従来から行われていたものです。
一方、近年、デジタル機器やSNS(Twitter、Facebookなど)の利用が身近になったことにより、データ入手の面で大きな変化がみられるようになりました。まず、長期間のタイムスケールでのデータが得られるようになり、その規模も数百から数百万に拡大できるなど、アナログな実験での制約が取り払われるメリットが指摘されています。

本書では、デジタルな実験のデザインの仕方や倫理面についても触れられており、非常に参考になります。

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2021年07月01日

コラム

「臨床研究と疫学研究のための国際ルール集」を博⼠⼈材がナナメ読みしてみた

代表取締役 市⽥⾏信

私はもともと経済学や農学系の研究室にいたため医学や疫学の体系的な教育を受けた事は無い。2003年頃から、社会疫学の研究会である⽇本⽼年学的評価研究に、研究室の先輩を通じて偶然関わることになったが、研究会の代表である近藤克則先⽣から医学系の論⽂の書き⽅を教わったときは、その書き⽅が体系⽴っていて驚いた

⽂系の論⽂に⽐べて書くべきことが⾮常に細かく指定されているため、読みやすく、また、⾮常に書きやすくなっていると感じた。例えば、アンケート調査などでデータを取得した⽇など、論⽂やレポートを書く時に忘れそうになったことはないだろうか。この本に含まれる「STROBE声明」には、このような、何もないと書き忘れそうな項⽬のリストが⽰されている。それ以外の項⽬として、研究結果をどこまで⼀般化できるかを考察する、といったものもある。

さらに、どのような研究デザインで⾏われた研究結果のグレードが⾼い(≒より確からしい)のかが明確に⽰されており、例えば、RCT(ランダム化対照試験)は「⾼」、観察研究は「低」、その他は「⾮常に低」、とされる。このため、政策や実務上の判断や、建設的な議論を⾏うためにディスカッションにおいて活⽤しやすくなっており、個⼈的には、医学以外の分野でも、書き⽅のガイドラインが分野に無いのであれば、医学論⽂の書き⽅に則ることが有益と考えている。

近年、⾏政においてもEBPM(証拠に基づく政策⽴案)を重視するようになってきた。例えば、内閣府のウェブページ上では以下のように⾔及さている。本書は、EBPMの源流である医学のエビデンスについてのガイドライン集であり、重要な視点やフレームワークを豊富に含んでおり、エビデンスについて深く理解するために有益である。

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策⽴案)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策⽬的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。
政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活⽤したEBPMの推進は、政策の有効性を⾼め、国⺠の⾏政への信頼確保に資するものです。内閣府では、EBPMを推進するべく、様々な取組を進めています。

書誌情報とリンク
タイトル 「臨床研究と疫学研究のための国際ルール集」
著者 中⼭ 健夫、津⾕ 喜⼀郎
出版社 : ライフサイエンス出版 (2008/12/22)
発売⽇ :2008/12/22
⾔語 ⽇本語
単⾏本 : 277ページ
ISBN-10 4897752515
ISBN-13 : 978-4897752518
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